恋愛結婚は何をもたらしたか (ちくま新書)



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恋愛結婚は何をもたらしたか (ちくま新書)
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社会学者はいい仕事だ

はっきり言って、取りあえずいっぱい本は読んだんで、「優生学=悪」という流行りの図式を使って、「恋愛」を絡めて、お話を作ってみましたというだけの本だ。こんなにいい加減に、一面的な解釈で歴史資料を使って許されるのだろうか。優生学研究を真面目にしている人間(松原洋子、市野川容孝etc)、歴史を社会学はいかに思考できるか真剣に考えている人間に失礼だ。素人相手のぼろい商売をするなと言いたい。 
恋はどこへ行った

恋愛、結婚、出産、健康で「いい子」の子育て。私達は普通それを、1セットで無前提に「幸せ」と考えていると思う。恋愛結婚したからにはもれなくついてくる「幸せ」として。筆者は、そんなささやかな個人の夢に国家や思想が介入し、結婚…家庭を「優良国民再生産装置」として利用した歴史を解き明かしてみせる。表題の「恋愛結婚」にカッコがついているのがミソ。決して恋愛指南書でも結婚の勧めでもありません。幸せは個人のものだ、という筆者の情熱が伝わりました。中身の重さにしては飄々とした文体も、息が抜けて良かった。
軽快に、恋愛結婚の魔をうつ

私的で内面的なもののように思われる「恋愛」が、近代日本においては個人を国家の意向に効率よく従わせるためのいわばメディアとして機能していた、という事態を解読するための本。優秀な社会学者ならではの手際よい概念整理がすばらしい。ジェンダー・セクシュアリィ論や優生学関連の研究成果がたくさん参照されており、専門的な議論の現状を一般向けに広報するという、新書らしい利点も充実している。また本書で主に扱われる戦前の学者や評論家の著作に対する著者の読解が非常にさえており、文章批評のお手本にもなると思った。

ただ読んでいてどうしても気になったのは、ときに現れる「僕はこう思う」式の主張のやり方である。好みの問題なのだろうが、この語りのソフトさを押し出そうとするスタイルが本書の趣旨にそぐわないように感じられた。著者は優生思想を批判する文脈で、上から高圧的に理念を押しつける主張より、一般大衆の心情をやさしく引き寄せながらイデオロギーを叩き込む言葉遣いの方がよほど危険であると、適確に論じていた。なのだから、自分も「ユーモア」あふれる論述などに溺れないで、論理のクリアな硬い叙述に徹するべきではなかったのか。まあ、そうすると全体に重たくなって読みやすさが減じる、という難点があるけれども。
頭をガツンガツンと3回くらい殴られる本

いやー。近年これほど頭をガツンと打たれた本はなかった。常日頃より、「〜だから〜しなくてはいけない、と考えるのはおかしい」「〜は〜ということになっている、というのはなぜ?」・・・と考えているつもりであった。しかし、結局、自分はまだまだ既成概念や偏見から自由ではなかったのである。

本著では、「結婚=幸福」「結婚=恋愛の結果」という、誰もが当然視している前提を疑う。そして、結婚=恋愛=優生学的選択=国家繁栄・種族のための生殖という驚くべき図式にまで遡る。(ちょっと単純化しすぎですが)著者は敬意を持って、注意深く言葉を選んで表現してはいるが、フェミニズムの先達平塚らいてうなどですら、国家のための生殖という考え方から自由ではなかったという点もショックであった。われわれは、科学や技術を進歩させてきたと同様の努力と呻吟を経て、価値観を進化させてきたのだということを感じる。やはりわれわれは進歩している。より人間らしく生きられるようになってきているのである。

われわれが「当たり前のこと」と思っていることは、実は当たり前でも何でもない」。われわれには、精神と行動と思考の自由が与えられている。思考停止して、精神の牢獄に自ら囚われ人になってはならない。私の精神は十分に自由であろうかか?その自由を十分に行使しているのだろうか?そのように改めて自分自身に問い直すためにも、何度も読み直したいと思う。
恋愛と結婚の不思議な関係

 恋愛とは明治以降に西欧由来で発生したものであり、それ以前の日本にはなかった、ということがある時期によくいわれたようだ。しかし、第1章の「恋愛」の起源の考察において小谷野敦の議論を引きながら著者が書いているように、恋愛をもっぱら西欧由来のものと考えたのは近世以前の文化史に無知であった者の錯覚である。

 著者はそのこともふまえた上で、恋愛が結婚・家族とどう結びついていったかを説く。キーワードは副題にある通り「優生思想」である。

 本書では、大正期に起こった母性保護論争やエレン・ケイ『恋愛と結婚』から優生思想の流れが整理されている。優生思想が是とされていたのは何も大正期だけではない。戦後のほうがむしろ優生思想は国家によって法的に強化され、優生目的の断種手術の対象も広げられた。「優生結婚」の理念を高らかに語る声も、むしろ戦後にこそ勢いを増した。そういう事実を丁寧に扱っていく。そうして選別と排除が推し進めてられてきたという現実の指摘は非常に興味深い。

 気になってしまった点をひとつ。本書の最後の方で、女性の生殖の自由を守る一方で、では障害者の権利はどう尊重されるのか、という問題に著者は触れている。著者自身がその問題の重要さを提示しながらも、解決策についての自身の考えは明確には見えなかった。本書のテーマからすれば本筋ではないからかもしれないが、見解を読んでみたかった、と思った。



筑摩書房
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